「東京タワー」の宣伝がまた新聞に載ってたな。「泣けます」っていうのがひとつの売りのようになってるみたいやけど。あんなもので泣けるのか。母親が死んで「オカン」というだけで泣けるのかなあ。

どうも僕は人が死んでしまう小説というのは苦手で、そういう場面になるとちょっと緊張して読んでしまう。そうして緊張した割にはあんまり満足しないで終わってしまう。何でなんやろう。

いままで本を読んでいて泣いたことがないか、というとそんなことはなくて。一番最初は井上ひさしの「イサムよりよろしく」で、泣きながら読んだのを覚えてる。なんや、悲しい話より感傷的な話のほうが泣けるみたいやな。まあ、そんなに本を読んで泣く方ではないですけどね。これを書きながら、はて、他の本で泣いた話はないかいなと考えてみたんやけど、思い浮かべへんくらいやからね。だいたい「泣きたい」と思って読めへんからなあ。



土曜日に図書館で借りた植草甚一の本は「古本とジャズ」(角川春樹事務所・ランティエ叢書)という題名。いつものごとく、いろんなところからの寄せ集めなんやけど。本の話をするにしても昔話をするにしても、新しいおしゃれの話をするにしても、語り口が変わるわけやないから、印象としては「植草甚一を読んだ」ってことでまとまってしまうのですな。

この中には「植草甚一自伝」なんていうのもあって。どんな自伝やろうと思ったら、これが自伝とは名ばかりの思い出話を「思いつくままに書いてみました」みたいな文章でね。だいたいが「何年にどこそこの小学校に入学し」などという書き出しなどは全くなく、いきなり東京のどこそこの喫茶店のコーヒーは、なんてところから話が始まる。それも昨日飲んだコーヒーだったりする。それで「思い出したんだけれど、50年位前、」と、いきなりタイムスリップして昔話となるわけ。

これはやられたな。なんかよおわからん間に「植草ワールド」にはまっていってる自分が居ててね。とても気持ちいい。気持ちいいんかい。そ。いいのです。

実は植草甚一については、今まであんまり詳しくは知らなかった。ジャズ評論家で乱読家。古本好きでニューヨークの古本屋の「全部の奥付けを見てまわった」という話を兄から聞いたことがあるな。コレクション好き。膨大なジャズのLPは、死後、どういうわけかタモリがすべて引き取ったんじゃなかったかな。

で、この本には巻末に簡単な年表みたいなのがついていて。これを読むとびっくりやね。ジャズの評論を始めたのは50過ぎぐらいからやねんね。それどころかジャズを聴き始めたのが40代半ばだとかそれくらいで。それって、今のわしの年やないかいな。わし、今からジャズを聞き出して、それで評論までやれるとは思わないであるよ。

いや、出来るのかもしれませんなあ。やる気さえあれば。あと、才能もあるやろうけど。ともかく。これでまたしばらく植草カブレな文章になるんでしょうなあ。申し訳ない。誰に謝ってるんだか。



「ひとりごと」にもちょっと書いたけど、関川夏央の「中年シングル生活」(講談社文庫)には、読みながら何度も「くすっ」とか「けけけっ」と笑ってしまった。そんな面白い話ばっかりやないねんけどなあ。そこはかとなくうら寂しい文章の方が多くて。そんな中に「流れ者の小林旭には、浅丘ルリ子はついていかないのだ」と急に言われるとついついけけけっとなってしまうのである。

関川夏央を読むのはこれが初めてである。何で読む気になったかというと、高橋源一郎の「小説教室」で、たいそう褒め上げていたからである。気に入った人が推薦する本は読んでみて損はないはずやと思うわけであるな。

小説でもよかってんけど。小説は目につかへんかってね。文庫では。何で文庫を選んだんかな。たぶん電車で読みやすいやろうと思ったんやと思うな。ま、確かに読みやすかったな。一つ一つの話が短かったし。それでいてそれぞれがつながってて。というても基本的にはエッセイのようなものですから。つながるも何もないのだけれど。書いてあることは題名のとおり。中年のシングルの生活(暮らしがなくて生活がある、と書いてるけど)はどんなものかということやね。なかなか面白かったけどね。わしはシングルではないけど。シングルに憧れてもいないけどね。

中には自分の中年生活だけやなくて、中年で(中年やな)生涯を終えた夏目漱石の話や、同年代の森瑶子、最後に対談で出てくる阿川佐和子とか。いろんな人の仕事のこととか人生のこととかも書いてはる。最近、こういう書評めいたものをよく読んでるな。まあ、気に入った本を読もうと思ってるだけで。それがちょっと偏りがあったとしても、誰に迷惑をかけるわけでもないから気にもしてないけどね。

ただ、書評めいた本とか、ちょっと作家のことを書いた本に出会ってしまうと、その作家の本も読んでみたくなって、そうやって際限なく次々に読みたい本が出てきてしまうのですな。
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