これはもう、めちゃくちゃに面白かったですよ! 今年になって読んだ本の中で、間違いなくナンバーワン(犬だから、というしゃれじゃなく)
15歳の、養護学校に通う(という事実はずっとあとでちょっとだけ触れられる)クリストファーが書いた「ミステリー小説」という体裁をとっている。このクリストファーが、とんでもない記憶力と天才的な数学力の持ち主。
肝心の話の流れはあっちにいきこっちに行き。それというのも、この本を書きなさいと行った学校の先生が「周りに起こったことも描写するのよ」というものだから、そしてクリストファーときたら、周りに起こったことを、それこそ何もかも覚えてしまうものだから、それをいちいち書いていくときりがなくなってしまうのだ。

そもそもの発端は、先に書いたように先生に言われて何かものを書くことになって、そして書くなら大好きな「ミステリー」ということに決めて(途中に、ホームズの「パスカヴィル家の犬」についての考察がある)
おりしも、近所のシアーズさんの飼い犬が、庭仕事用のフォークで刺されて殺されている現場を見つけ、その犯人探しを始めることになる。
ところが、クリストファーは「見知らぬ人と話すのがいや」とか「黄色と茶色はキライ」とか「ひとに触られるのがいや(掴まれるのはもっとイヤ)」とかいったハンデがあるので、なかなか話がすすまない。
それでもいろんなことが分かってくる。近所の、いままであまりしゃべったことのないミセス・アレグザンダーからは、ミスタ・シアーズとお母さんとの話を聞いてしまうし。しかし、だからどうだというのだ。クリストファーには「悲しい」とか「恥ずかしい」とかいう感情はない。あるのはただ、論理的に正しいこと。曖昧なことはわからない。すべては論理的に考えられて答えを導き出す。ミスタースポックもびっくりだ(スタートレックがすきらしい、ということも出てくる)。

そうやって事件を解決、というか、取るに足らない事件だから解決も何もないのだけれど、ともかく真犯人を突き止めて、そしてさらに冒険は続くのである。
前半は飼い犬殺しの犯人探し、後半はロンドンへのひとり旅の冒険、ということなんだけれど、それがひたすらクリストファーの視点から、ただその一点からしか書かれていないところがすごい。誰とどんな話をしたか、を逐一書いている。そしてそこには感情移入がすこしもない。あるのはただ事実事実事実。あったことをつらつらと書いているだけ。そして事実から導き出される結論と、その結論から導き出される行動。いやあ、ほんまにその論理的に整然としている点、まさしくミスタースポック(また登場してもらいました)。

ずっと読んでいると、いかにわたくしたちの生活が曖昧なものに満ちているのかが分かりますな。なにしろクリストファーは曖昧ということを理解できない。嘘をつくこともない。というか、嘘をつくことができない。だから嘘をつく人を信用できない。そしてお父さんは嘘をつくので一緒には暮らせない。おっと、ちょっとネタバレになってしまう!

それにしても、この主人公のクリストファーはすごい。気持ちを落ち着かせるために、「基数の3乗を順番に考え」、道に迷わないようにするために、螺旋状に(だと思う。とても理解できない方法だ)道をたどっていって「頭の中に地図を書いていく」
さらに、大学入試の上級試験(数学)を受験して、当然のようにAをもらい、巻末にはその時の問題(三角形の証明問題)まで載せている(読んでもよく分かりません。その部分はまったく数学の教科書のよう)
途中に出てくる地下鉄の広告、動物園で見たオランウータンの絵、もちろんフィクションなんだけど、話の本筋とはまったく関係のないどうでもいいような描写が(先ほどのシャーロック・ホームズの考察も含めて)とても凝っていて、それがそのままこの主人公の魅力になっていることが分かる。

ああ、それなのに、そのまわりの大人ときたら!

それからそれから・・・・・と、面白いところがいっぱいなのだよ。最後に、とても大きな希望を持たせてくれるところも、いいなあ。
コメント
この記事へのコメント
コメントを投稿する
URL:
Comment:
Pass:
秘密: 管理者にだけ表示を許可する
 
トラックバック
この記事のトラックバックURL
http://tacobu.blog13.fc2.com/tb.php/1861-0568d7ee
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
この記事へのトラックバック