005:【麦ふみクーツェ】いしいしんじ(新潮文庫)
港町に育った、体は大きいが心臓は弱い「ぼく」が語る物語。あるとき、どこからともなく足踏みの音が聞こえてくる。とん たたん とん 初めは屋根裏部屋から。そこを除くと、「クーツェ」と名乗る男が足踏みをしている。そして、不思議な言葉を伝える。やがて、足踏みの音は、「ぼく」の内側から聞こえるようになり・・・・
というのが最初の謎。それぞれの章ごとに、いろんな話があって。というか、いろんな挿話が挟み込まれて、それぞれに謎があって解決があって(解決、というのか)、やがてもっと大きな謎というか疑問というか、そういうものが「そうだったのか」(かもしれない)というところにいくという、二重三重に楽しめる物語なのだ。
いつも思うことだけれど、いしいしんじの書く小説には、とことんと言えるような悪者が出てこないのだな。この物語でも、一番の悪者と思われるのは、港の村の財産をすべてかっさらっていってしまう「セールスマン」なのだろうけれど、その男についても、暖かい眼差しが感じられる。すべてが悪かった、というふうにならないところが、面白いねえ。物語そのものは、とても作り物めいていて、だから「生まれ変わり男」なんていうのが出てきても、「そんなやつも、いるかもね」と思わせてしまう、そんな、ありそうにもないことも信じ込ませてしまうところがうまいなあと思う。
港町の吹奏楽団で、ティンパニを叩いていたおじいちゃんの影響もあって、「ぼく」はやがて、音楽家の道を歩むことになっていくのだけれど。さらにその先にも、不思議な、ちょっと悲しくてちょっとほっとするような話が待ち受けている。いやいや、全体がそうなのですよ。いろんな話を積み上げ積み上げていって、ひとつの大きな物語ができあがる。この構成力。いしいしんじ、すごい。

と、まだ5冊読み終えたところか。100冊なんて、まだまだまだまだ先。
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